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中野敏治のつぶやき

見えないところの努力

*カセットテープの時代のできごと。私にとって生徒に教えられたできごとです。

私もがんばっているんだから

 秋になると合唱コンクールを行う学校は多くあります。各学級では、どんな曲を歌おうかといろいろな曲を聞きながらクラスメイトみんなで決めていきます。全員一致で曲が決まることはなかなかありません。そこで、それぞれが歌いたい曲のよさをクラスメイトに主張しながら、話し合います。それでも決まることはなかなかないのです。それぞれが話し合いながら、どこで折り合いをつけるかになってきます。

パートを決めて

 曲が決まれば練習です。クラス全員で、曲の歌詞をゆっくり読み、イメージをつかんでいきます。そして、クラスが三つのパートにわかれ、三人のパートリーダーを中心に、練習を始めました。毎日、朝の会・帰りの会と練習を繰り返しました。
 大変なのは伴奏者と指揮者です。それぞれのパートを回って、伴奏や指揮をしていくのです。一つのパートで伴奏や指揮をすると、他のパートには伴奏者や指揮者がいません。

伴奏者が動き出した

 放課後、「先生、空のカセットテープ三本ありますか?パートごとに音を入れてきたいんです」と伴奏をしている生徒が私のところに来ました。急だったので、「上から録音をしてもいいから」と音の入っているカセットテープを彼女に渡しました。翌朝、彼女は「先生、録音終えたので、これで練習をしていいですか」と三本のカセットテープを職員室へ持ってきました。彼女は自宅でピアノを弾き、一晩でカセットテープに録音をしてきてくれたのです。

消し忘れの彼女の本音

 彼女からカセットテープを受け取りながら「放課後の練習でこのカセットテープを使おうな」と声をかけました。
 私の担当教科の授業がない時間に、そのカセットテープを聴いてみました。伴奏のうまい彼女なら、あっという間に三つのパートを録音したのだろうと思っていたのですが、そのカセットテープから流れてきた音を聞き、驚きました。
 ピアノの音だけでなく、彼女の言葉も入っていたのです。その言葉は、独り言のようでした。彼女は自分の言葉が入っているとは思わないまま、私にカセットテープを渡したのでしょう。
 「もうこんな時間だ」「何でうまくいかないの」「あ~、もう!」など、彼女の嘆きに近い声が入っていたのです。
 ショックでした。伴奏の録音など簡単だと思っていた私は、彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。クラスメイトも録音は簡単にできるものだと思っていたことと思います。
 放課後までに彼女の声が入っていた部分を消しました。何もなかったようにカセットテープを使い、パート練習が始まりました。彼女は、自分の苦労を誰にも話しませんでした。

合唱コンクール。結果は優勝。その結果が出たとき初めて彼女の苦労をクラスメイトに話しました。
(子は宝です)

2019年10月28日
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