父親の子を思う強さ

また、喫煙?

 放課後、地域の方から学校に「おたくの学校の生徒らしき子どもが、タバコを吸っています。」と電話が入りました。
 何人かの教職員でその場にいくと、本校の男子生徒二人がいました。タバコを吸ってはいませんでしたが、一人は以前、喫煙で指導した生徒でした。彼らの慌てぶりから「もしかして…」と思いました。
 「ここで何をしていた?」と尋ねても何も答えません。「タバコを吸っていたのか?」と問いかけると、興奮しながら「どこに証拠があるんだ!」と、はき捨てるように言うのです。あまりにも興奮するので、その場から二人を離し、別の場所で私とその二人が話をしました。

 以前もこうして話をしたことを思い出していました。問い詰めもせず沈黙の時間だけが流れました。二人は、少し落ち着き、ぽつりぽつりと話し始めました。
 一人の生徒が小さな声で「タバコを吸った。」とつぶやくように話しました。その後、彼らと今後の生活について、いろいろな話をしました。素直に話してくれただけでうれしかったのですが、保護者にも伝えておかなければと思い「今夜、家庭訪問するから、先生が行く前に自分から親に話しておくんだぞ。」と、伝えました。

親として、子にけじめを
 
 父と妹の三人暮らしの彼でした。父親が帰ってくるころに、彼の家を訪ねました。家の中は真っ暗です。玄関から大きな声をかけると、彼の妹が出てきました。
 「お父さんはまだ仕事?」と尋ねると「お兄ちゃんと一緒に床屋に行った。」と言うのです。すでに床屋は閉まっている時間なのに、どうしてこんな時間に床屋へ行ったのか、と不思議に思いながら、床屋の場所を聞き、その床屋に向かいました。
 やはり床屋はカーテンが閉まっていましたが、店の奥から、明かりが漏れていました。
 そっとドアを開けると、そこには彼が椅子に座り、床屋の方に髪を切られる瞬間でした。彼の横には父親がじっと彼を見て立っていました。
 私はその光景に驚き、挨拶もせず、いきなり「どうしたのですか?」と声をかけました。振り向いた父親の目は涙でいっぱいでした。「こいつにけじめをつけさせるんです。」と、静かな言葉の中に、強い決意を感じました。
 「こいつ二度目です。あれだけ約束したにもかかわらず。先生、二度目ですよ。これは、俺と息子との約束です。」と話を続けました。
 彼は、何も話さず、あふれる涙を拭きもせず、鏡に映っている自分の顔をじっと見ているだけでした。
 床屋の方が彼に声をかけました。「いいの?切るよ?」と。「うん」とうなずく彼の頬から涙が落ちました。
 電気バリカンの音が、部屋いっぱいに響きました。彼の髪はどんどん短くなっていきました。わずかな時間で短髪になった彼は、なぜかさわやかに感じました。彼の頬には、流れた涙の跡だけが残っていました。

俺の彼女です

 彼が社会人になったころ、偶然デパートで女性と一緒に歩いている彼に会いました。「先生、俺の彼女ですよ。」と隣にいた女性を私に紹介してくれました。「先生ですか?中学校のころ、本当に迷惑をかけたと聞いています。お父さんにも迷惑かけたから、親孝行したいって、彼ったら、よく話すんですよ。本当に、悪い子だったんでしょ?」と彼女が話している横で、彼女の横で彼は照れ笑いをしていました。 

いつまでたっても、教え子は忘れられないです。

2019年08月11日