動きは遅いが…
中学校で学級担任をしているときです。中学校は、教科担任制なので、自分の担当教科の授業がない時間(ほとんどないのですが)は、学級事務や教材研究、委員会、担当者の会議等が行われます。
私は担当教科の授業がないときは、できるだけクラスの子どもたちの授業を見るようにしていました。
入学当初から、とても体が大きく、やや動きが遅い生徒がいました。やさしく、何を言われても、ニコニコしているような生徒でした。運動は苦手でしたが、部活動は運動部に入り、一生懸命にみんなと一緒に活動を始めました。しかし、みんなの練習になかなかついていけず、汗をびっしょりかき、すぐに座りこんでしまいます。
体育の授業で
ある日、体育の授業がグランドで行われていました。長距離の練習をしているようでした。クラスの生徒は、走る人と走っている人のタイムを計る人の2つのグループに別れての練習でした。
秋の青空の下、みんなの声援がグランドに響いていました。その青空の下、生徒がどんどんゴールをしていく中で、何周も遅れて走っている一人の生徒がいました。体の大きな彼でした。汗びっしょりで、遠くから見ると、歩くような速さで走っているようにさえ見えました。
彼の姿は、誰が見ていようと、何を言われようと、あきらめることなく、一歩一歩、ひたすら前に、前に、進もうとしているように見えました。
ゴールをした生徒たちが、彼に声援を送ります。その声援の前を彼は通り過ぎ、最後の一周を走り出しました。声援はさらに大きくなっていました。
次の瞬間です。一人の生徒が彼を追いかけました。その生徒に続くように、クラスの生徒全員が彼を追いかけました。そして、彼に追いつくと、彼を中心にみんなで一緒に走り始めたのです。もう、ゴールには誰もいません。
汗びっしょりで走っていた彼は目からも汗(涙)が流れているようでした。走りながら何度も何度も目をふきながら走っている彼の姿に、流れる涙が見えるようでした。彼は、息が上がって、肩で息をしているようにも見え、泣くあまりに呼吸が苦しいようでもありました。
彼のゴールはクラスの生徒全員のゴールでした。遠くからその光景を見ていた私は、胸が痛くなるほど震え、目が熱くなっていくのがわかりました。涙が頬を流れる前にそっとハンカチで涙をふき取りました。
子ども達は、大人が予期せぬことを当たり前のように、そして、自然に行うことがあります。その言動に大人は大きな感動で心が震えます。
仲間とともに成長をする
彼は、学年が進むにつれ、運動が苦手というコンプレックスを克服し、クラスだけでなく、全校生徒からも信頼を得るようになっていきました。誰に対しても優しく、何事にもひたむきに努力する彼の姿が、多くの生徒からの信頼を得たのだと思います。最上級生になった彼は、生徒会長として推薦されました。彼は生徒会長として、学校を動かす素晴らしい活動をしていきました。
どんな時でも一生懸命に頑張ることが一番格好いいのです。