「いじめ」なんかに負けないぞ

先生、監督になって!

 ある日の放課後、三人の生徒が職員室にやってきました。三人ともクラスが違う生徒たちです。彼らは私の近くへ来て小さな声で、「先生、ちょっと話があるので、廊下まで来てくれますか?」と話しかけてきました。あまりにも、突然のことで、何の話なのか想像もつきませんでした。しかも、廊下で話したいというのです。「ここでは話せないの?」と声を返すと、「相談があるので、廊下で話をしたいのです。」と言うのです。
 彼らと一緒に職員室を出て、廊下の先にある相談室へ向かいました。相談事なら廊下で話すより、相談室のほうが落ち着くと思ったのです。

劇をやりたいんだ

 三人は相談室のソファーに座ると、いきなり「先生、監督になってください。」と言うのです。「先生はテニス部の顧問だし、他の部の監督なんかできないぞ。」と答えると、彼らは真剣な顔で「先生、俺たち、今度の文化祭で、劇をやりたいんです。その監督になってほしいんです。もし、先生が俺たちの監督になってくれれば、有志での参加も可能になるかもしれないんです。」と言うのです。
 文化祭は、部活動やクラス単位での参加が原則でした。彼らはその原則を知っていながら、有志で参加し、全校生徒に劇を見せたいと言い出しているのです。
 「クラスの出し物もあるし、部活動もあるだろう。いつ練習をするんだ。それに、先生は劇の監督はしたことないぞ。」と遠まわしに「参加は無理だろう」と、言ったつもりでしたが、彼らは、すでに脚本を作って、練習は毎日昼休みに行うなどのスケジュールも作っていました。

「いじめ」なんかに負けないぞ!

 彼らが手にしていた脚本を読むと、いじめにあっていた生徒が、クラスでいろいろなことを経験しながら、いじめに負けない勇気といじめのない学級を作っていく内容でした。よくも三人だけでここまで準備をしたと驚きました。
 「先生、俺たちにとって最後の文化祭だし、この劇で、全校生徒に訴えたいことがあるんです。」とやや興奮し、大きな声で、私に真剣に訴えるのです。私は、彼らの情熱に圧倒され、監督を引き受けました。
 彼らは、参加を認めてもらおうと、文化祭実行委員会へ何度も話しに行きました。ステージ発表の時間が少し空きそうということで、二十分ほどの時間をもらうことができました。「内容は監督の責任で」という条件付きです。

汗と涙のいじめ劇

 毎日、毎日昼休みに彼らは視聴覚室に集まり、練習を始めました。部活動とクラスの出し物にも彼らは手を抜かず、一生懸命に取り組んでいました。三人で始めた練習もいつしか五人に増えていました。脚本を何度も修正し、効果音を考え、大道具も作り始めていました。

 文化祭当日、短い時間でも彼らの演技は、熱いものを全校生徒に伝えました。演劇が進むにつれ、会場はシーンとなりました。演技をしている彼らの顔には、汗と涙が流れていました。

 演技をしたメンバーの一人は一年生のときにいじめにあっていた生徒だったのです。

2019年08月14日