教師冥利

大きな似顔絵

 「先生、最近子どもたちが学校から帰ってくると、みんなで公民館に集まっているみたいなんですよ。何をしているのかと覗きに行くと、窓にはカーテンが閉められて中が見えないようにしてあるんです。」という連絡が私のところにはいりました。卒業制作もないのに、クラスのメンバーが毎日集まっているというのです。

表情はみんな豊かだった

 生徒たちはみな進路が決まり、卒業式までのわずかな時間を特別日課として、駅や河原の清掃、卒業遠足やお別れ球技大会など、中学校生活の最後の思い出作りをしているときでした。
 保護者からの連絡が気になったものの、学校での子どもたちの表情を見る限りでは、心配はないと思えました。
 一年間クラス担任をしていると子どもたちの顔の表情やしぐさで心の変化を感じることがあります。親と喧嘩をしてきた日、飼ってるペットが病気で元気がない日、宿題を忘れた日、もちろん体調が悪いときも子どもたちの表情はかわります。
 しかし、クラスの生徒の誰一人として表情が変わった様子はなく、とても明るく過ごしているのです。

たった一年間の付き合いなんだ

 このクラスは、私が持ち上がりのクラス担任ではなく、いきなり三年生の担任になったクラスでした。生徒たちに最初に話したことは「私はみんなの担任でいられるのは、一年間だけ。だから悔いのない一年を私は送る。」と宣言しました。 
 この一年間には、クラス内で嫌がらせもありました。さまざまな問題をみんなで話し合い考えてきました。時には保護者とも話し合いを持ちました。悔いを残した指導をしたくなかったのです。

卒業まであと数日

 いろいろなことがあった一年間も、あっという間に終わろうとしていました。卒業式まであとわずかとなり、卒業式の練習や予行練習も終わりました。
 特別日課では、「家族のあり方」をテーマにした映像を見ながら、みんなで家族について考えました。卒業式当日、式場からの退場曲は、この映像のテーマ曲を選びました。親への感謝の気持ちを忘れないでほしかったのです。一つひとつの事にも思い出を作ってほしかったのです。
 卒業式前日、生徒たちにお別れの話をしました。話の途中で、クラスで一番元気な女子が教室から飛び出したのです。彼女は更衣室に入り、そこに座り込み、声を出して泣いていたのです。

大きな似顔絵が

 卒業式が始まりました。入場前から泣き出す生徒たち。式が終えた後、後輩たちがグランドに並び卒業生を送ってくれました。卒業生が後輩の間を歩き終えたと思ったら、数人の生徒が私の所に来て、手を引き、グラウンドの真ん中に連れて行くのです。「先生、見て!」と体育館の方を指差すのです。その指差す方向を振り向いた瞬間、模造紙数枚にもなる大きな紙が体育館のベランダから広げられたのです。そこには大きな私の似顔絵とメッセージが書かれてありました。「みんなで公民館に集まって作ったんだよ。先生の似顔絵は色紙をちぎって一枚一枚貼って作ったんだよ。」と。

泣かされました。生徒たちに。

 その大きな似顔絵をバックに卒業生と記念写真を撮りました。卒業式の写真を撮りに来ていた近くの写真屋さんが、その写真を撮り、自分のお店の前に飾ってくれたのです。
 写真屋さんの前を歩く方々が見るだけでなく、卒業した生徒も見にきてたといいます。

2019年08月22日