反抗期でも親思う気持ちは変わらない

見た目じゃないんだ

 やや問題を抱えた学年の担任となったときのことです。彼らは三年生になった途端、学校での姿勢・意欲・態度など、急に変化をしてきたのです。さまざまな場面で、一学期からいろいろと彼らを指導してきました。時には怒鳴りあうことさえありました。ゆっくり話して、生徒が納得するという指導ができない状態でした。不思議なもので、校舎内では、なぜか彼らとすれ違う機会が多くあるのです。彼らも、一番会いたくない私にどうしてこんなに会うんだろうと思っていたと思います。校舎の昇る階段を変えても会うのですから、お互いに驚くばかりでした。

釣りが趣味なやんちゃな子たち

 夏休みが近くなった頃、廊下で話をしていた彼らの中に入っていきました。彼らは私を拒むこともなく、そのまま夏休みの話を楽しそうに続けていました。二年生のときはこうして話ができていたのです。そんなことを思い出しながら彼らの中に入っていったのです。話題は釣りの話になり、ますます盛り上がっていました。(この夏休みに彼らをどこかに連れ出せないだろうか)と、楽しそうに話をしている彼らを見ながら、ふと、そんな思いがわいてきました。
「夏休み、一緒に釣りに行くか?」
と彼らに声をかけました。彼らはびっくりした顔をし、隣にいる仲間と「いいかもな」と、ささやいているのです。
 周りの先生や生徒から見ると、学校中で犬猿の中のようにさえ感じる私と彼らが一緒に話している光景は不思議に感じたと思います。

釣りがキャンプに

 夏休み前の三者面談で、保護者に夏休みに釣りに行くことを本人の前で伝えました。保護者はびっくりした顔をしていましたが、その驚きは、「釣り」ということへの驚きでした。「先生、キャンプではないのですか?」と保護者から言われ、反対に私が驚きました。彼らは、親に釣りに行くとは言わず、キャンプに行って釣りをしてくると話をしていたのです。
 戸惑いました。でも、彼らと出かけることに興味があり、夏の釣りは、キャンプでの釣りに切り替えました。もちろん保護者の了解を得て、夏休みのキャンプへ向けての準備を始めました。

湖へのキャンプへ出発

 出発当日、彼らの家を一軒一軒まわり、それぞれの保護者に会い、話をし、彼らを一人ひとり車に乗せていきました。
 ある親は、「先生、これ持っていって」と小さなクーラーボックスを渡されました。「なんですか」と尋ねると、隣にいた生徒が「肉だよ、肉。今夜、バーベキューだよ」と言うのです。次の生徒の家では「先生、畑で取れた野菜を持っていって」と。
 四人の生徒の家をまわり終えたら、バーベキューの材料はすべてそろっていたのです。親同士が話をして、みんなで相談していたのです。全員がそろい、いよいよ目的地の湖に出発しました。
 車の中で、四人の生徒は大はしゃぎです。問題行動くりかえす生徒の中には、学校という場を離れると、とても明るく素直になる生徒がいるものです。四人の生徒の中にも、そのような生徒がいました。
 車の中では、釣りの話で盛りあがっていました。狭い車の中で、さおを出してみたり、道具を見せあったりと、これから向かう湖での釣りの準備が、始まっているようでした。

親の思いが…

 そんな話題の後、彼らは親の話を小さな声で始めました。
「うちの親ったら、今日持ってきた肉を自転車で買いに行ったら、コケて、左肘と左足を怪我したんだ。馬鹿だよな。」
「大丈夫かよ?」
「俺が、夕飯とかはコンビニで買うって言ったのに、親どうして相談したみたいだよ。」
「おまえの親、怪我までして肉を買ったのか。」
「今日、これから医者に行くって言っていたよ。」
「俺たちのために肉を買ってくれたのか。」
「うん・・・」
「うちは親父が畑で作った野菜を持ってきたよ。親父の作ったのってうまいぞ。」
「へ~。親父が作った野菜を食ってばかりいないで、たまには畑の手伝いするのかよ。」
「たまにはな。でも親父はすごいぞ。いろいろなものを畑で作っているし。普段は会社に行っているのに、よく畑の仕事もできるよな。」
 小さな声で話し始めた会話も、知らぬ間に普通の声の大きさになってきていました。

 反抗期を迎えている彼らも、たった一泊ですが、親元を離れ泊まりをするとなると、なぜか親のことを思い出しているようでした。会話の中には、親への文句はなく、楽しそうに、しかも、言葉のはしはしに親への思いが感じられました。

普段の生活からは

 湖に着き、キャンプ場で受付を済ませてから、テントに荷物を入れました。彼らは普段の生活から予想もできないほど、荷物をきちんとテントの中に入れるのです。暗くなっても足が引っかからないようにとテントの周りの小枝まで片付けているのです。そんな彼らの姿をそっと見ていました。
 車に乗り、湖をひと回りして下見です。子どもたちは、もう待っていられないようで、そわそわしていました。いざ釣りを始めたものの思うようには釣れず、暗くなってきてしまいました。夕飯はバーベキューです。親の思いがいっぱいの食材を彼らは手際よく準備し、あっという間に食べつくしました。
 食事中に「おまえ、お袋に電話しろよ。病院いったんだろう。」という言葉も出るほど、やはり親のことが互いに気になっているようでした。残り火で薄暗くなったバーベキューの火が消えるまでいろいろな話をしました。

 子どもたちは、みんな一生懸命に生活をしていること、親に反抗してしまう行動とは反対に親への思いが強いことなど学校生活では感じられない言葉をたくさん話してくれました。
 テントにもどり、就寝です。ここでも彼らは荷物をテントの隅にきちっと寄せるのです。学校では、だらしのない様子しか見ていなかった私は驚きました。

 子どもは様々な姿を持っています。よき姿に気づき、見つめていたいです。
(子は宝です)

*今では、子どもたちとこのようなキャンプをするのは難しいでしょう。

2019年12月14日